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「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
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商品情報 あらすじ 特徴 楽曲オープニング「冒険でしょでしょ?」 エンディング「世界が夢見るユメノナカ」 「最終未来を見せて!」 「恋のミクル伝説」 登場人物 公式HP 商品情報 通常版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 発売日 2007年12月27日 価格 5,040円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) 限定版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 超プレミアムBOX 発売日 2007年12月27日 価格 9,450円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) 限定版同梱物 いとうのいぢ 描きおろし特製BOX 北高制服モチーフ特製ポーチ SOS団ロゴ入りソフトケース "長門有希のおしゃべりたいまー"縦置きスタンド 朝比奈ミクルのふきふきクリーナーストラップ 特製デザインヘッドホン 描き下ろしスティックポスターセット ビジュアルアーカイブ the best版 タイトル 涼宮ハルヒの約束 発売日 2008年12月4日 価格 2,940円(税込) ジャンル 非日常体験アドベンチャー 対応機種 PlayStation Portable メディア UMD 開発元 ガイズウェア 発売元 バンダイナムコゲームス プレイ人数 1人 対象年齢 C(15歳以上対象) あらすじ もう何度目になるだろうか、このデスクで目覚めるのは…。 時は北高祭前日。誰もがクラスや部の出し物の準備に追われる中、SOS団もあの迷作「朝比奈ミクルの冒険」の上映に向けて準備中だった。 超監督ハルヒの指示のもと、完成に向けて連日徹夜編集作業に勤しんでいるのは我らが主人公、キョン。 今日も映画を編集中のパソコンの前で目覚めてしまった彼。 いつの間にか北高祭前日になってしまった。かれこれ何日も編集作業を続けてきたのに一向に完成を観ない映画を尻目に、キョンは顔を洗いに部室をでる。 各々の出し物の追い込みでバタつく校内で出会うのは、占い師姿の長門や鶴屋さん、谷口などなど馴染みの顔ばかり。 しかし、彼はそれらひとつひとつにふとした既視感を抱くのだった…。 そして徐々に明らかになる学園の「異変」。例によって次々と起きる非日常的アクシデントの数々。 なあハルヒよ、これもお前が望んだことなのか…? はたしてキョンは無事に映画を完成させ、文化祭当日を迎えることが出来るのだろうか……!? 特徴 アニメ版の声優を起用し、フルボイスで話が展開される。 また、さまざまなルートがあり、進む方向によって話が変わり、エンディングも変わる。 楽曲 オープニング 「冒険でしょでしょ?」 作詞:畑亜貴/作曲:冨田暁子/編曲:藤田淳平 歌:平野綾 エンディング 「世界が夢見るユメノナカ」 作詞:畑亜貴/作曲:田代智一/編曲:安藤高弘 歌:平野綾、茅原実里、後藤邑子 「最終未来を見せて!」 作詞:畑亜貴/作曲:田代智一/編曲:安藤高弘 歌:平野綾、茅原実里、後藤邑子 「恋のミクル伝説」 作詞:山本寛/作曲・編曲:神前暁 歌:後藤邑子 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 朝比奈みくる 長門有希 古泉一樹 鶴屋さん キョンの妹 シャミセン 谷口 国木田 喜緑江美里 コンピュータ研究部部長 朝比奈さん(大) 謎の少女 公式HP 涼宮ハルヒの約束 公式サイト
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涼宮ハルヒの切望―side H― どうも『涼宮ハルヒの異界』の作者です。 こちらのTOP絵でランダム表示される中の一つ、とあるシリーズの妹達コスプレ長門を描いたのも私です。 さて、今回は前回の『涼宮ハルヒの異界』の続編でございます。 ハルヒサイドとキョンサイド分けして、マルチサイドっぽく仕立てたつもりですが、あんまりうまく行っていませんので生暖かい目で見守ってください。 本当は、どちらのお話も読まないと、ハッピーエンディングに辿り着けない、という風に細工したかったんですけど、知識がなくて断念しました。 なので、どちらか一方を読み進めていっても大丈夫ですけど、たぶん片方だけだと話が見えなくなるんじゃないかなと。 注意事項は今回も前回と同じです。 一応、まだ続編がありますので。 こちらはハルヒサイドです。 では、どうぞ。 涼宮ハルヒの切望Ⅰ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅱ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅲ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅳ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅴ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅵ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅶ―side H―
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翌日の朝。俺は懐かしい早朝ハイキングコースを歩いて学校へと向かっていた。 とは言っても、向こうの世界じゃ毎日のように往復していたけどな。 北高に入り、下駄箱で靴を履き替えていると、 「おっ。キョンくん。おはようっさ。今日もめがっさ元気かい?」 「キョンくん、おはようございます」 鶴屋さんの元気な声と朝からエンジェル降臨・朝比奈さんの可憐なボイスが俺を出迎えてくれた。 何か向こうの世界じゃ何度も聞いていたのに、帰ってきたという実感があるだけで凄く懐かしい気分になるのはなぜだろう? 靴を履き替え終わった頃、長門が昇降口に入ってきた。 「よう、今日も元気か?」 「問題ない」 声をかけてやったが、やっぱり帰ってきたのは最低限の言葉だけだ。ただし、全身から発しているオーラを見る限り 今日の朝は気分はそこそこみたいだな。 階段を上がっている途中で、なぜか生徒会長と共にいる古泉に遭遇する。 「やあ、これはおはようございます――どうしました? 何かいつもと雰囲気がちょっと違うように見えますが」 「朝からお前と遭遇して、せっかくの良い気分がぶちこわしになっただけだ」 「これは手厳しい」 ふと、俺はあることを思い出し、古泉と生徒会長を交互に見渡して、 「とりあえずご苦労さんとだけ言っておく」 「はい?」 俺の台詞の意味がわからず、呆然とする古泉と生徒会長を尻目に俺は自分の教室へと向かった。 そして、教室に入ってみれば、ハルヒのしかめっ面が俺をお出迎えだ。 少しはこっちの気分を読んで欲しいぞ、全く。 「遅い! せっかく良いもの見つけたから、朝ご飯食べながら学校に走ってきたのに!」 「お前の都合でどうこう言われても困るぞ」 団長様のありがたい怒声を聞きつつ、俺は自分の席に座る。 見ればハルヒは机の上にチラシを沢山並べていた。どうやら何かの催しの案内らしいな。今度は何だ。 全米川下り選手権にでも丸太に乗って参加するつもりか? 「ほら見てよ、これって凄くおもしろそうじゃない? ついでにSOS団のアピールもバッチリだわ! これは――」 意気揚々と語り始めるハルヒ。俺はそれを耳から垂れ流しつつ、ちょっとした考え事に入る。 最初に言っておくが、これは昨日の夜家に帰って風呂に入りながら考えた俺の妄想だ。 俺はずっと向こう側の世界に行って、SOS団を作り上げるまで試行錯誤しまくってきたわけだが、 実際のところ不可解な点もたくさんあるのが実情だ。 特に情報統合思念体については明らかに矛盾している点がある。連中は長門によるハルヒの力の使用は二度あって、 一度はハルヒのリセットで隠蔽、もう一つは直前で阻止したようだったが、今俺が帰ってきた世界の長門の世界改変分が カウントされていないのはなぜだ? 最初に聞かされた話じゃ、ここの連中とあっちの連中も結局は同じもののはずだからな。 そう考えれば、俺の知る限り長門による力の行使は三回あったはず。これはあきらかに矛盾している。 じゃあ、実はハルヒの勘違いで、こことあっちの連中は実は別物と言う可能性はどうだろうか? 一応パラレルワールドみたいなものだし、 その分だけ情報統合思念体が存在していてもおかしくはない。が、それはそれで矛盾がある。見たところ同じような考えを持った 存在だったことを考えれば、この世界で長門が世界改変を実施したら、同じように長門の初期化、さらにハルヒの排除という 流れになるんじゃないだろうか。向こうの連中は過剰反応しただけで済ませるにはどうにも腑に落ちない。 まあ、なんだ。前置きが長くなったが言いたいことはこういうことだ。 俺が去った後にリセットされてやり直されている世界――それが今俺のいる世界なんじゃないかってね。 つまり俺はずっとここに至るまでの軌跡をずっと描き続けてきたってことだ。 情報統合思念体にも実は俺たちとは違うが時間の流れみたいなものがあって、あの交渉の結果、 この世界では長門の世界改変がスルーされた。約束通りに。 それだといろいろつじつまの合うことも多い。 ハルヒがどうして宇宙人(長門)・未来人(朝比奈さん)・超能力者(古泉)・異世界人(俺)がいることを望んでいたのか。 それは最初からSOS団を作るために、探していたんじゃないだろうか。だからこそ、不思議なことを探してはいるものの、 全員そろっている現状に密かに満足しているのではないのか。それだと唯一いないと言われている異世界人は、俺だし。 それに…… ―――― ―――― ―――― なーんてな。考えすぎにもほどがある。本当にそうなら、今目の前にいるハルヒは自分が神的変態パワーを持っていることを 自覚していることになっちまうが、それなら最初に世界を作り替えようとしてしまったこととか、元祖エンドレスサマーとかの 説明が全くつかなくなってしまう。自覚してあんなデリケートな性格になっているんだから、あえてやるわけがない。 普段の素振りを見ても、そんな風にはとても見えないしな。自覚しているハルヒを知っている身としては。 ……ただし。 ――あんたの世界のあたしがうらやましい。何も知らずにただみんなと一緒に遊んでいられるんだから―― この言葉が少々引っかかるが。 まあ、どっちにしろ凡人たる俺にそんなことがわかるわけもない。一々確認するのも億劫だし、面倒だ。 現状のSOS団に満足しているのに、わざわざヤブを突っつく必要なんてあるまい。 俺の妄想が本当かどうかはその内わかるさ――その内な。この世界も別の神とか宇宙的勢力とか出てきて、 まだまだ騒がしい非日常が続いて行きそうな臭いがプンプンしているし。 「ちょっとキョン! ちゃんと聞いているの!?」 突然ハルヒが俺のネクタイを引っ張ってきた。やれやれ、妄想もここまでにしておくか。 俺はハルヒの手をふりほどきつつ、 「で、次はどこに連れて行ってくれるんだ?」 その問いかけにハルヒはふふんと腕を組み、実に楽しそうな100W笑顔を浮かべて、 「聞いて驚きなさい。次はね――」 ~涼宮ハルヒの軌跡 完~
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第 三 章 太陽の光で目が覚めた。 微かににせせらぎが聞こえる。どうやら俺は眠っていたようだ。 太陽の位置からすると、昼前か昼過ぎあたりだろうか。 ちょうど木影になっていた俺の顔に日光が差してきていた。 季節はどうやら真冬のようだった。一月か二月か。空気が肌を刺すように冷たい。 ――ここはどこだ? 起き上がり、辺りを見回してみる。少し頭が痛む。 小川と遊歩道に挟まれた、並木が植えられている芝生の上に俺はいた。 公園のようだった。見慣れない風景。いや、見慣れないというのとは何か違う。 奇妙な感覚。 ――今はいつだ? 腕時計を見た。それは二月二十四日の午後二時五分を表示していた。 俺の格好は春先を思わせるような軽装だった。 真夏の格好よりは幾分マシとは思ったが、やはり少々寒さが身にしみる。 何だ、この違和感は? そうして俺は、場所や時間よりも重大な疑問に思い当たった。 ――俺は誰だ? 思い出せなかった。 冷静に考えてみたところ、どうやら俺は記憶喪失という状況におかれているようだった。 俺は目の前にあった遊歩道のベンチに腰掛け、所持品を調べてみた。 あったのは財布と手帳。 身につけているものはデジタル表示の腕時計とサングラス、それに季節外れの衣服。 財布に何か手がかりになるものが入っていないかと調べてみたが、俺の身元を確認出来るものは何ひとつない。 手帳も同様だった。 手帳のスケジュール欄の書き込みは九月十三日で始まり十月二十日で終わっていた。 それはそもそも予定ですらなく、以下のような意味不明の単なるメモ書きだった。 9月13日 29D03H48M 9月14日 29D03H57M 9月15日 29D04H08M 335×24×60÷20=24120 9月16日 29D04H18M ・ ・ 10月14日 01Y01M10D 10月15日 01Y01M12D ・ ・ 10月20日 06Y00M05D こういった書き込みが十月二十日まで一日も欠かさず毎日続いていて、十月二十一日の日付には赤い丸印が記されていた。それ以降の日付は空白だった。 一体何だこれは? アルファベットはおそらく年月日や時分を表していて、数式にも24×60という数字があ ることから、何か時間に関係することを書き留めているように思える。 これは俺が書いたものなのか? 試しに同じ字を手帳に書き込んでみた。同じ筆跡。俺の字に間違いないようだった。 せめて、日記のようなものでも書いておいてくれればありがたいのだが、どうも俺にはそう いう習慣はないらしい。 手帳のページを繰ると、後半のメモ欄に携帯電話の番号と住所が書かれてあった。 その番号も住所も、俺には全く心当たりはなかった。 俺は今まで何をやっていたんだ? 何となくだが、俺には何かしなくてはいけない重要なことがあったように思える。 だが、それは何だ? 足元を眺めながら俺はしばらく考えてみた。三十分ほどそうしていたが、思い出せることは何もなかった。 とにかく今の俺にとって必要なのは、何でもいいから情報を仕入れることだ。 公園を出てしばらく歩いた俺はコンビニエンスストアを見つけ、新聞を買ってみた。 日付はやはり二月二十四日。 手帳のスケジュールの日から、およそ四ヶ月が経過している。 手帳を四ヶ月間全く記入しなかったということだろうか。 それまでの日付は一日の抜けもなく毎日埋っているにもかかわらず。 だが、俺が四ヶ月以上記憶とともに意識を失っていたという推測はさらにありえないことだった。 一体どうなってんだ? 新聞の記事を読んでも特に手がかりになるようなものは見出せなかった。記事のほとんどはあまり理解出来なかったしな。俺の頭はどうもあまり出来がよくないらしい。 そしてまた途方に暮れた。 公衆電話を見つけ、手帳に記されていた番号に架けてみたが、現在その番号は使われていないというメッセージが返ってくるだけだった。 寒さに耐えかねた俺は、商店街の洋服店で適当な上着を買い、見覚えのある風景でもないかと、周辺を歩き回った。 商店街を出て二時間ほど歩いただろうか。辺りが暗くなり始めている。 腕時計の数字は夕方の五時過ぎを表していた。 行くべきところも解らず、ただ呆然と歩いていた俺は、いつしか人気のないところに迷い込んでいた。 いや、迷い込むという表現は適切じゃないな。 今の俺には知っている場所がどこにもなく、つまり俺は常に迷っているのだ。 不意に、右奥の路地の方から、口論をしているような声が聞こえた。 路地を覗いてみる。数人の男と、中学生と思われる長髪の少女がそこにいた。 少女の進路前方を塞ぐ男たち。三人だ。しばらく何かを言い合った後、男の一人が少女の肩を強引に掴み、少女を拘束しようとする。 少女は素早い動作でその男の手首を取ると、脚の付け根まで届こうかという長髪がふわりと揺れた次の瞬間には、男が少女の後方に吹っ飛んでいた。合気術かあるいは柔術か、どちらにせよ凄まじい身のこなしだ。 だが、投げられた男も他の二人も、それでひるむような気配はなかった。 じりじりと少女との間合いを詰める。 俺は急いで元の道に戻り、置かれてあったゴミバケツを見つけるとそれを左脇に抱えた。 路地まで助走をつけ、角を曲がる遠心力も使って、それを男たちに思いっきり投げつけた。 空中で蓋が取れ、逆さになったゴミバケツは内容物を散乱させながら放物線を描く。 蓋が手前の一人に、本体が奥にいた一人に命中。ゴミは三人に――厳密に言えば少女を含む四人に――漏れなく降り注いだ。我ながら見事なスローイングだ。 動きの止まった男三人がこちらを睨んだ。俺はなんとなくだがリーダー格と思しき男に見当をつけ、そいつを睨みかえした。どうやら俺は案外胆の据わったやつらしい。 男たちが襲い掛かってくることを予想して身構えた俺だったが、男たちは顔を見合わせると、俺とは逆方向に走り去っていった。 「助かったよ、ほんとありがとっ! あははっ、臭うなこのゴミっ!」 少女はゴミを払い落としながら笑っていた。今さっきあんなことがあったというのに、全く 動じていないようだ。俺以上に胆が据わっている。 「今のは知り合いか何かか?」 「いやっ、全然っ」 「じゃあ、なんだってあんな目に遭ってたんだ?」 「実はねっ、前にもあったんだよこういうこと。でもさすがに今のは危なかったよ。男三人がかりはあたしもツラいからさっ」 襲われやすい体質か何かなのか? などと思っている俺に少女が言った。 「ほんと助かったよっ! お礼がしたいんだけど、時間はあるっ?」 時間があるのかどうかは実際のところ俺自身にも解らなかったが、俺には他に行くべき場所も思い当たらず、少し迷ったがそれに応えることにした。 少女の家に案内された俺は、ただただ驚いた。門から家が見えない。左右を見回すと塀が遠近法に従って延々と続いていた。ここはどこかの武家屋敷か何かなのか? 一体どんな悪いことをすればこんな家に住めるんだろう、などと考えていた俺に既視感のような不思議な感覚が襲ってきた。そしてそれは一瞬で過ぎ去っていった。 残念なことに、やはり思い出せることは何もなかった。 家屋の玄関前で、当主と名乗る初老の男性が向かえてくれた。 「娘から事情は聞きました。危ないところを助けていただいたそうで、私からも礼を言います。本当にありがとうございました。こんなところでは何ですから、とにかく中へ」 この屋敷から察するに、さっきのはおそらく誘拐未遂事件か何かだったのだろう。 俺は身代金の額を想像しようとしたが、途方もない数字になりそうですぐさまあきらめた。 屋敷の応接に通された。家屋は日本風だがこの部屋は洋風の造りだった。 当然ながら、一般家庭のリビングを三つか四つばかり足したくらいに広い。 ゴテゴテとした飾りや置物などは一切なく、一枚の絵が掛けられているだけのシンプルな部屋。そうしたものがなくともこの部屋が充分に手のかかったものであることは一目で解る。なんと言うか、滲み出る品格のようなものがこの部屋からは感じ取れた。 純和風の衣服に着替えた少女は腕や髪を鼻に当て、匂いを調べていた。あれだけ髪が長いとさぞかし洗うのも大変だったろうな。ゴミバケツを投げつけたのはさすがにやりすぎだったか。 「失礼ですが、この近くにお住まいの方ですか?」 当主からの質問だった。俺の服装からそう思ったのだろうか。上着を買ったとはいえいささか季節外れの感は否めない。家の周りの散歩か、あるいは近所に買い物にでも行くような格好に違いなかった。 だが、俺は少し考えて旅行者ということにしておいた。 記憶を失っているという説明をすんなりと信じてもらえるようには思えなかったし、近所の話題を振られても困る。 今思えば俺は記憶を失ったことについてかなり楽観的に考えていたのだろう。すぐにでも記憶は戻るだろうと。 少女はニコニコしながら俺の返答を聞いていた。 「でしたら、もしご都合がよろしければしばらく当家に滞在されてはいかがですか。海側や少し西側の方に行けば、見るものもたくさんありますよ」 これは願ってもないことだった。 俺には行くべきところも解らなければ、帰るべきところも解らないのだ。 「そうしなよっ、お兄ちゃん!」 少女の言葉が、なぜか心地よく響いた。 不思議な懐かさとでも言おうか、そんな暖みがあった。 俺はありがたくその提案に甘えることにした。 そうして俺は、詳しくは書かないが今までに食べたこともないであろう豪華な夕食をご馳走になり、詳しくは書かないが小振りの銭湯としてすぐにでも営業出来そうな客用の浴室で疲れを取り、詳しくは書かないが老舗の高級旅館に泊まるときっとこんな部屋なんだろうという客間に案内された。 しばらく今日一日のことを振り返っていると、少女がやってきた。 「お茶持ってきたよっ!」 この娘は、一日中こんなにテンションが高いのか? 「いやー、おやっさんにこってり絞られちゃったさっ。いつもはあんな時間にあんな道通らないんだけどねっ。今日は学校でやることがあって特別なのだっ!」 「やっぱりあれは誘拐とかそういう類のものだったのか?」 少女は俺の持っていたサングラスに興味を示し、手渡したそれを眺めながら話しを続けた。 「多分ねっ。ここいらも物騒になったもんだよ。前にもあったってのは三ヶ月くらい前。ほんと危なっかしくておちおち学校にも行けやしないよっ」 会話の内容とはうらはらに、少女が楽しそうにしているのは気のせいか? 「まあそんなこと気にしすぎてもしょうがないっさ!」 当主も少女も、本当に気持ちのいい人たちだった。 俺は自分が嘘をついていることに関して、申し訳ない気分になっていた。 少女はしばらく話したあと、また明日と言って席を立った。 去り際に、 「お兄ちゃんって何だかちょっと変わった人だねっ」 と言い残して。 彼女は俺にも解らない何かを見抜いたのだろうか? それについてしばらく考えてみたが、早々にあきらめて俺は床についた。さすがに今日は色々と疲れた。 雪が舞っている。俺はベンチに座っている。見覚えのない風景。 辺りを見回す。遊歩道。ベンチ。外灯。柵に囲まれた茂み。 どこからか少女の泣き声を耳にした。 声を頼りに歩く。少し開けた場所に出た。ブランコや滑り台がある。 物憂げにうつむいた少女が一人、ブランコに腰掛けている。 少女は泣いてはいない。にもかかわらず泣き声はまだ聞こえている。 わずかにブランコを揺らしながら、足元を見つめる少女。 何かをじっと考えているようだ。 やがて静止するブランコ。 少女は静かに立ち上がると、うつむいたまま立ち去っていく。 目が覚めた。奇妙な夢だった。見覚えのない風景。公園だろうか。 あれはこの家の少女ではなかった。俺の失われた記憶に関係しているのだろうか。 朝食の後、俺は初老の当主に、少し時間をいただけないかと願い出た。 話したいことがあると。 あまり長くは時間を取れませんが、という前提で当主の書斎に通された俺は、これから少し奇異な話をしますが驚かないで聞いて欲しい、と前置きをしたうえで自分の身の上を正直に話した。 昨日の昼過ぎに、川沿いの公園で目を覚ましたこと。 そこがどこなのか、今がいつなのか、自分が誰なのかすら解らなかったこと。 自分の所持品から、自分の身元を調べようとしたが、全く手がかりがなかったこと。 手帳に電話番号と住所が書いてあったが、電話は繋がらず、その住所にも全く心当たりがなかったこと。 しばらく当てもなく歩いていると、偶然少女と男たちが争っている場面に出くわしたこと。 昨日はなんとなく記憶喪失であることを言わないほうがいいように思え、嘘をついたこと。 そして、自分には何かやらなくてはならないことがあったと思えること。 「それが事実だとしたら興味深い話ですな」 当主はにこやかに話した。 「こうして今話しているのも何かの縁。もしよろしければあなたの身元調査に協力させていただきますが。私もそれなりの情報網を持っておりますので、きっとお役に立てると思います」 「今の私には頼るものが何もありません。恐縮ですが、お言葉に甘えさせてください」 「ええ、ええ。どうかお気になさらずに」 当主は一呼吸おいて、 「では、まず私にも所持品を確認させていただきたいのですが。包み隠さずに申し上げますと、身元の解らない人物を当家に滞在させるとなると、こちらとしてもそれなりに調べさせていただくことがあります。ですがあくまで形式的なものだと思ってください。私もこういう立場の人間ですのでそれなりに人を見抜く目を持っています。私にはあなたが何かを企むような人間には思えませんので」 当主の要求は当然のことだ。早速俺は、財布、手帳、それに腕時計を差し出した。 しばらくの間、それらを検分した当主の見立てによれば、財布、手帳に関してはありふれた市販品で、特に手がかりになるようなものは見当たらない。 手帳に書かれていることも、電話番号と住所を除けば特に身元の解るようなことは書かれてはいない。 腕時計は一般的なクォーツ時計ではなく電波時計であるが、数万円あれば買える市販品とのことだった。製造番号の刻印などはなく、やはり手がかりにはなりそうにない。 そして当主は、疑問を正直に語った。 「あなたの所持品には不自然さが残ります。あなたは何らかの理由で敢えて自らの身元が所持品から判断されないようにしていると見受けられます」 それに関しては俺も同じ意見だった。大抵の場合、財布の中には身元が判断出来るようなものが必ず入っているはずだ。でないと、ビデオテープ一本借りれやしない。 「もしかしたら、あなたは諜報活動のようなことを生業とする方なのかもしれませんね」 当主は冗談っぽく言った。 仮にそうだとしても悪いようにはしませんので、記憶が戻られたら必ずお知らせください、とも。 「ひとまず電話番号と住所の線で調査してみます。あなたは調査が終わるまでは遠慮なく当家にご滞在ください」 「重ね重ねお礼申し上げます」 俺は深々と頭を下げた。 「いえいえ、もとはと言えば、娘を救っていただいた恩がありますし。それとあなたが記憶喪失であることを家人には話しておきたいのですが、よろしいですかな?」 「ええ、構いません」 ひとまず、俺は当面の宿を確保することが出来て、胸をなでおろした。 その日は当主の了解を得てまた周辺を歩き回った。 だが今日も手がかりは何も得られなかった。見知らぬ街並み、見知らぬ人々。 屋敷に戻った俺は、これからお世話になる身で客間を使わせていただくのは恐縮なので、出来れば別の部屋に移してもらえないかと当主に頼んだ。 広すぎる部屋は今の俺の身分ではなんとも落ち着かなかった。 「そうおっしゃるのであれば、こちらは全く構いませんよ」 当主は快諾し、俺に離れの部屋を用意してくれた。 「この部屋は先代が時々使っていた部屋でして」 俺がいかにも恐縮しきりなのを気の毒に思ったのか、当主は、 「もしよろしければ、ご滞在のあいだ娘の学校への送り迎えをしていただけると誠にありがたいのですが。いかがでしょうか?」 と提案してくれた。 俺は、是非そうさせてくださいと即答した。断る理由など欠片もない。 「やっほーっ! お兄ちゃん記憶喪失なんだってねっ。どおりでおかしいと思ったさっ!」 当主が去ってしばらく後、今度は少女がやってきた。 「俺におかしなところなんてあったか?」 「だってお兄ちゃんの言葉って、アクセントとかがうちらと一緒じゃない。明らかにこの地方の言葉だよ。それで旅行者ってのは不自然さっ!」 なるほど、そう言われてみれば確かにその通りだった。実に頭のいい少女だ。 だとすれば、やはり俺はこの近辺に住んでいたのだろうか。 ところで、君の言葉は周りの人とはかなり違うと思うぞ。 「あははっ、そうかいっ?」 あいかわらず、屈託のない笑顔。 「でも、おかしなのはそれだけじゃないんだけどねっ。それは記憶が戻ったらまた聞かせてもらうよっ」 少女にはまだ何か含むところがあるらしい。 「じゃあ、明日からよろしくねっ!」 次の日から、俺は少女とともに登校し、記憶を取り戻すために街中を散策し、少女とともに下校するという日々を過ごした。 「あー、お兄ちゃん、読みたい本があるから、悪いけどお迎えのときまでに買っておいてくれないっかな?」 「今日は、ちょっと別の道で帰りたいんだけど、大丈夫っかな?」 「スモークチーズ買っておいてくれないっかな? あたしの大好物なんだっ!」 「昨日のスモークチーズより別の店の方が美味しいから、今日はちょっと遠出してもらっていいかなっ?」 と、俺に色々と注文をつけてくれた。 おそらく彼女なりに俺を色々なところに出向かせて、少しでも記憶を思い出せるきっかけになるようにと考えてくれているのだろう。 単なるお使い要員なのか、スモークチーズにうるさいだけかもしれないが。 そして、結局のところ俺は記憶を取り戻す糸口すら全くつかめなかった。 また夢を見た。数日前と同じ、雪の舞う公園。 どこからか聞こえてくる少女の泣き声。ブランコに佇む少女。 ある日の朝食後、当主に呼ばれた。調査の結果が出たということだった。 「結論から申し上げますと、芳しくありませんでした。まず電話番号ですが、どうも今までに一度も使われていない番号のようです。あれは電話番号ではなくて何か別の意味を持つものかもしれませんね」 電話番号に似せた暗号か何かということだろうか。 俺はやはりスパイとかそういった職業の人間なんだろうか。 「住所は実在しましたが、あなたとの関連性は全く見出せませんでした。住人の家族、親戚だけでなく、友人や知り合い関係なども洗ってみましたが、行方不明者や旅行者あるいはこの近辺に住んでいる者、つまりあなたに該当しそうな人ですな、そういった方は見つけられませんでした」 当主は残念そうに首を振り、 「これであなたの所持品からの調査の線は断たれたということになります」 俺は率直な疑問を率直に訊いた。 「俺はいつまでここにいてよいのでしょうか?」 「実は、娘を誘拐しようとした連中がほぼ特定出来まして。ですがまだ確証は得られていない状態で、それが解るまでは娘も狙われ続けるということになります。よろしければ、しばらくの間は娘のボディーガードを続けていただけるとありがたいのですが。その後のことはまたそのときに考えましょう」 「申し訳ありません。記憶が戻りましたらいつか必ずお礼をさせていただきます」 「いえいえ、こちらとしても大変助かっておりますので。娘もあなたにはよくなついているようですし。実を言うとこれまでも何度かボディーガードを雇おうとしたことはあったのですが、いつも娘に断られて困っていたものですから」 お気遣い痛み入ります。俺は頭を深々と下げて、書斎を後にした。 もしこのまま記憶が戻らなければ、いずれこの家を出なければならないだろう。 いつまでも当主の好意に甘えるわけにもいかない。そうなれば俺は自力で生活の手段を考えながら記憶を取り戻す努力をしなければならない。 俺が自由に使える時間はあまり残されていないだろう。 俺は、あの奇妙な夢にかけてみることにした。 書店で近辺の地図を買い、公園を調べ、印を書きみ、しばらくの間それらを重点的に廻ってみることにした。 遊歩道。ベンチ。外灯。柵に囲まれた茂み。そしてブランコ。 どこの公園にもあるようで、しかし夢の情景を満たしているものはなかなか見つからない。 何よりも、夢で見た風景である。それを鮮明に思い出せるはずもない。 この近辺の公園だという保障はどこにもなかった。だが、俺にはこれ以外に記憶を取り戻すための手がかりは何一つないのだ。 三日間かけて、俺は地図上の公園全てに足を運び、さらに元の地図を中心として周囲八箇所の地図をあらたに買い求め、二週間かけてそれらを踏破した。 だが、結局俺の夢に該当する公園は一つも見つからなかった。 もしかしたら見落としがあったのかもしれない。 あるいは、ここよりもっと離れた場所にある公園なのかもしれない。 俺は途方に暮れていた。何しろ公園が本当に俺の記憶を呼び覚ますためのきっかけになるのかどうかすら解らないのだ。 俺がほとんど諦めかけていた頃、それは起こった。 ある日の昼過ぎ。俺は私鉄の駅前にいた。既にこの周辺には一度足を運んでいる。 駅前の道沿いには商店が立ち並び、北側には豪華そうなマンションが見て取れる。 俺はここ数日の間、念のためにと幼稚園や小学校に付随しているような公園を探し歩き、この日の午前中にそれら全てを調べ終わったところだった。 もはや打つべき手は何も思いつかなかった。 何の意図もなく予感もないまま、線路沿いの通りから人気のない路地に入った。 そして角を曲がってすぐのところにそれはあった。 「あれ……、こんなとこに公園なんてあったっけか?」 疲れのあまり思わず独り言が出る。 既に肉体的にも精神的にも疲労はピークに達していた。 地図と照合する。載っていない。公園の造りから、比較的新しく出来た公園のように思えた。 やれやれ、新しい地図を買ってもう一度洗いなおす必要があるかもな。 俺は大した期待もなくその公園に入った。 遊歩道、ベンチ、街灯の雰囲気などが夢の場所に似ているように思えた。 だがなにしろ狭い公園だった。ブランコや滑り台がないのは一目で解る。 俺はベンチに腰掛け、頭を抱えながらこれからのことを考えていた。 何も思い浮かばなかった。そして俺はいつの間にか眠っていた。 夢を見た。いつもの公園。雪が舞っている。 少女の泣き声とともに、ブランコの音がどこからか聞こえてくる…… 目を覚ました。薄暗がりの公園には外灯の明かりが点っている。 寒い。雪が降り始めていた。 山側から吹き降ろす風が頬を冷やす。 どこからか少女の泣き声が聞こえる。 ブランコの音が鳴り続けている。 待て? なんだって? 泣き声? ブランコ? あらためて耳を澄ませる。夢の続きでも幻聴でもない。 それは微かではあるが、確かに聞こえる。 俺はブランコの音を頼りに走った。 その公園は、樹木が植えられている茂みを挟んで、二箇所にエリアが分かれていたのだ。俺が寝ていたベンチがある一画とは反対側に、確かにブランコと滑り台が置かれていた。 そして、ついに俺はブランコに座る憂鬱げな少女を発見した。 夢のとおり、彼女は泣いていない。だが泣き声は依然として聞こえてくる。 俺の姿に気づいたのか、少女は、 「あんた、さっきベンチで寝てた人でしょ。こんなとこで昼間から居眠りなんて、大人ってのも随分暇なものなのね」 随分と口の悪いガキだな、そう思いながらも俺は話しかけた。 「お前こそ、こんなとこで一人で何やってんだ?」 しかし、そいつは俺の問いを無視して言った。 「あんたどう思う? 世界ってつまらないものだと思わない? あたしはもうこんな世界うんざりよ。誰も私の話なんか聞いちゃいないわ」 お前こそ俺の話を聞いちゃいないだろうが。 「どうしたんだ? 家か学校で何かあったのか?」 「あんたは……自分がこの地球でどれだけちっぽけな存在なのか自覚したことある?」 何を言い出すんだ、こいつは? 「あたしね、この前野球場に行ったの。家族に連れられて……。あたしは野球なんかには興味ないんだけど。でも着いてみて驚いた……」 突然俺は、頭の中を揺さぶられるような違和感を覚えた。 「……日本の人間が残らずこの空間に集まってるんじゃないかと思った……」 誰かが俺の頭の中で、何かを叫んでいる。 「……実はこんなの、日本全体で言えばほんの一部に過ぎないんだって……」 少女は話を続ける。頭の中の叫びは次第に大きくなり、はっきり感じ取れるようになっていた。 言葉の主は繰り返していた。『思い出せ』と。 「……世の中にこれだけ人がいたら、その中にはちっとも普通じゃなく面白い人生を送ってる人だってきっといるわ。でもそれがあたしじゃないのはなぜ?」 少女は一呼吸置いて、俺に質問を投げかけた。 「あんた、宇宙人っていると思う?」 唐突に頭の中に一人の少女の顔が浮かんだ。短髪の、無表情で儚げな印象を与える少女。 「未来人は? 超能力者は?」 短髪の少女の隣に、無邪気に微笑む栗色の髪の美少女と、爽やかに如才なく微笑む美少年の二人が加わった。 思い出せ、思い出せ。 あらためて俺は目の前の少女に目をやった。 腰まで届く、長くて真っ直ぐな黒髪、それにカチューシャ。 意思の強そうな、大きくて黒い瞳。 俺は何かを思い出そうとしている。 「お前の……、名前を教えてもらっていいか?」 「そんなこと聞いてどうすんのよ」 俺の真剣な表情を見てあきらめたのか、少女は言った。 「まあいいけど。あたしの名前は、涼宮……」 俺は無意識に立ち上がって、叫んでいた。 「ハルヒ!」 ハルヒはブランコから立ち上がり、鋭い眼光でもって俺を睨みつけた。 「ちょっと……なんであんたがあたしの名前知ってるのよ?」 俺はその問いには答えず、興奮しながら続けた。 「宇宙人? そんなのは山ほど知ってるぞ。幽霊みたいにネットワークやらシリコンやらそういうのにとり憑く奴だっている」 いきなり何を言い出すのか、という表情で俺を見つめるハルヒ。 おそらくさっきの俺の表情がこんなだったに違いない。 「未来人? ありふれてる。現代人よりはるかに多いぞ。今より未来に生きてる奴らはみんな未来人だ」 ハルヒは呆気に取られていたが、そんなことはお構いなしに俺は続けた。 「超能力者? いくらでもいるぞ。奇妙な集団を作って奇妙な空間で奇妙な玉になってるような奴らがな」 ハルヒは呆れを通り越して訝しげな表情でこちらを見ていた。 俺は言った。ハルヒの目をじっと見据えて。 「いいか、よく聞けハルヒ。いずれお前はそういった連中の中心になって、好き放題、勝手気ままな人生を送るんだ。この地球、いや全宇宙の中でもそんなことが出来るのはお前だけだ」 ハルヒは目を見開らき、あらためて俺の表情をうかがっていた。 いつの間にか泣き声は聞こえなくなっている。 「だから周りのことなんか気にすんな。お前はお前が信じる道をただひたすら突き進めばいい。しばらく辛い時期があるかもしれんが、俺が保障する。お前は絶対に幸せになる。だから頑張って生きてくれ」 ハルヒは再び顔をうつむかせ、何かを考え始めた。 しばらくそうした後ハルヒは勢いよく俺を仰ぎ見た。 「よくわかんないけど覚えとくわ!」 そこには、俺が英語の授業中に初めて見たときと同じ、ハルヒの灼熱の笑顔があった。やっぱりお前にはその表情が一番よく似合う。 「話聞いてくれてありがと!」 そう言い残すと、ハルヒは俺がよく知る短距離走スタートダッシュの勢いで走り去った。 俺はハルヒの後姿が見えなくなるまで立ちつくしていた。 ハルヒよ、頑張って生きてくれ。 俺のためにも。 こうして、俺は全てを思い出した。 光陽園駅前公園から鶴屋家に戻った俺は、重要な話があると言って当主に時間を取ってもらった。 これからかなり奇異な話をしますが驚かないで聞いて欲しい、と前置きをしたうえで、俺は 話し始めた。 記憶が戻ったこと。 自分は十年先からやってきた未来人であり、詳細は明かせないがこの時空にいる俺はまだ小学生であること。 涼宮ハルヒという存在とその能力のこと。 宇宙規模的存在とそのインタフェース端末のこと。 俺よりはるか未来にいる未来人たちのこと。 ハルヒにより生み出される閉鎖空間、超能力者とその役割についてのこと。 そしてこれから自分はそれら超能力者を集めた機関を作らなければならないこと。 話し終えるのにざっと二時間はかかった。 俺はハルヒを救うために行動していることについては話さなかった。 それを説明するためには、情報統合思念体の企みについて話さなければならず、そうすると、俺がやつらと敵対する立場であることも明らかにしなくてはならない。 その事実を語ることについて俺は、慎重にならざるをえなかった。 結局のところ俺が当主に話したのは、俺が未来人であることに加え、俺が高校一年の時点で既に知っていた知識と、機関を作る必要があるということである。 当主は怒り出すこともなく、我慢強く話を聞いてくれていたが、その表情には当然の反応として明らかな困惑の色が見えていた。 「あなたの目に嘘は感じられません。それならば、あの電話番号についても納得がいきますからな。ですが、何か確証になるものがあるとよいのですが」 今の俺にとって、この電波話を信じてもらうのにさしたる苦労は必要なかった。 俺は当主の目の前で時間移動をおこない、三日後の新聞を入手して、それを当主に手渡した。当主は三日後を待つまでもなく、その場で新聞の内容にざっと目を通しただけで、俺が未来人であること、そして俺の話が全て真実であることを確信したようだった。 当主とは今の話を機密事項としてお互い他人に一切口外しない約束を取り交わた。 そして、当主は俺の機関立ち上げに全面的に協力する意向であること、詳細な計画を立てるためになるべく明日以降時間を取れるように努力することを表明してくれた。 結局俺は引き続き鶴屋家にお世話になることとなってしまった。 もはや俺には下げる頭も残っていない。 「いえいえ、私どもとしても地球滅亡の危機は避けたいですからな」 当主はどこまでも気立てのいい人物だった。そういうところは確実に鶴屋さんに受け継がれている。 「お兄ちゃん、記憶が戻ったんだってねっ。おめでとっ!」 離れに戻った俺に、将来の鶴屋さん――まあ今も鶴屋さんなのだが――がいつものテンションでお茶を持ってきてくれた。 妹からお兄ちゃんと呼ばれることは長きにわたる俺の念願だったのだが、それがまさか鶴屋さんによって実現されるとは。 「ありがとよ」 俺は笑顔で応えた。 「お兄ちゃん、名前なんていうのっ?」 俺は既定事項に則るならばこの名前を告げるしかないと思い、素直にそれに従った。 「ジョン・スミスだ」 「あははっ! それってどういう冗談っ?」 実に愉快そうに鶴屋さんは笑った。 「そういうことにしておいてくれ」 「まあいいさっ! でさっ、前に言ってたおかしなことだけど、聞いていいっかな?」 「ああ、なんでも聞いてくれ」 俺はお兄ちゃんと呼ばれたこともあって、とても気を良くしていて、かつ気を大きくしてい た。そして、俺は明らかに油断していた。 「ジョン兄ちゃんって、もしかして未来の人っ?」 お茶を含んでいたら、それは間違いなく俺の口から霧散していたはずだ。またしても、そして前回以上に俺は腰を抜かした。動揺が隠せない。 「ま、待て、なんだってそういう風に思うんだ」 満面の笑みを浮かべながら鶴屋さんは言った。 「だってお兄ちゃんのサングラス、割と有名なブランドだけど、それって今年の夏に初めて出る予定のモデルだよっ?」 参った。俺が数週間かけて、まさしく偶然とも僥倖とも言える奇跡で得た真実を、鶴屋さんは俺と初めて会った日からお見通しだったとは……。 「あー、ええとだな……」 考えながら話すのは未だに得意ではない。 「俺にはその、サングラスのメーカーに知り合いがいて、」 鶴屋さんが興味深かそうに俺を眺めている。 「……それでだな、そう、たまたま運良く発売前の試作品を譲ってもらったんだよ、これが」 「へぇーっ」 鶴屋さんの表情はとても楽しげだった。 「でもあのサングラス、随分とくたびれてたように見えたけど」 確かに……ハルヒにプレゼントされて以来、ロクに手入れもしてなかったからな。 そして、俺はやはりこの方を騙し通せるほどの才覚が自分にはないであろうという事実を受け入れ、うなだれながら白状した。 「これは君のお父さんにしか話してないことだ。君のお父さんも含めて絶対に誰にも内緒にしておいてほしい」 「わかってるよっ! 今までもこれからも誰にも言わないさっ。こんなこと他の誰も信じちゃ くれないしねっ!」 こうして俺と当主との約束は、この俺によって一時間を待たずして反故にされたのだった。 俺は情報統合思念体の統括者である老人から逃れるために時間移動し、その直前に老人によって記憶を奪われたのだろう。 ここはあのときから六年、つまり元の時代から十年半ほど遡った過去だ。 俺は最大でも六年間の時間遡行しか出来なかった。つまり少年が言っていた飛び石的時間移動がいつの間にか可能になっていたのだ。 これからのことは当主が言ってくれたとおり、明日からじっくり考えよう。 俺は床につき、すぐに眠りに落ちた。 それも束の間、俺は体全体が大きく揺さぶられる感覚に飛び起きた。 俺が幼い頃に経験した大地震、それを思い出させる強烈な衝撃だった。 だが冷静に辺りを見回してみると、おかしなことに何一つ揺れているものはない。 そして見たところ俺の体にも揺れは生じていない。 しかし俺は確かに激しい揺れを感じている。 何が起こっているのか、ようやく俺は理解した。時空振動だ。それもかなり特大の。 そして理由はすぐに思い当たった。 ハルヒによる最初の情報爆発が今まさにおこなわれている。 未来からでも観測出来た、という朝比奈さんの言葉を思い出す。 今まさに時空振の強大さを俺自身が感じていた。 おそらく今日の俺とハルヒとの会話が、この情報爆発を引き起こしたのだ。 そして驚くべきことに、つまり俺は、六年間の時間移動によりハルヒが作り出したという時 間断層を突破していたのだ。 あの老人ですらそれは不可能なことだと言っていた。 ハルヒは俺のために特別な抜け道を作ってくれていたのだろうか? 老人はあのとき、二度と情報爆発は起こらないだろうと言った。 超自然的かつ奇跡的な確率でおこなわれたことだと。 そしてそれは俺とハルヒの出会いにより再び引き起こされた。 もし運命というものが存在するのなら、俺はそれを信じてみてもいいと思った。 いや、今の俺にはそれを信じる以外に道はない。 第四章
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ハルヒ「やりたいのよ・・・!! やるわよ! どけ邪魔臭い!!ロリエロゲ!うせろ!! のれえんだよ!マイピクチャにいれすぎなんだよ! おい!!!」 キョン「・・・・。」 ハルヒ「インターネットさせろぼろPC!!!!!」 ハルヒは怒鳴るとキーボードで モニターを18回殴った ハルヒ「・・・・、始まれ!っていてるだろ!!! うせろ!SOS~!!ボロPCうぜぇぇぇええ!! ア・・ハァ・・・・・ハァ・・・・ハッ・・!」 古泉「・・・・・。」 ハルヒ「なんだよコイツ?! お絵かきチャットで荒らすな!!豚ーーーー!!!! 死ねちんかす野郎!!!」 古泉「・・・・涼宮さんおちついてください。」 古泉「ぐわっ!!」 キョン「古泉!!」 バンッ、 ハルヒ「うそだ!ふたばになんで 擬人化スレないの?! スレ立て・・すればいいのよ・・・。 ・・・・サイズが大きすぎる?! そんなばかな! イヤーーーー!! オーフォフォフォww 人生オワタ!!イヤァァァア! イヤァァオアオアオオアオ、 おあー、ゆるせねー、糞板フォーーウ!!、 SOS団の団長ハルヒが、こんな 板にやられちゃうわけ?! 私の名前はハルヒ!! サイズ小さいのupするわ! ・・・・おあ?この写真は犯罪?! 死ねーーー!! 消えうせろ!!ファック!まじうぜえええええええええええええ しねえええええええええええええええ しねええええええええええええええ みんなしにうせろもういやだあああああああああああああああああ」 古泉「・・・・。」 キョン「・・・・。」 みくる「うえーーーーーん!」 長門「・・・・・・・・」 (元ネタはキーボードクラッシャーだと思われる)
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涼宮ハルヒの鬱憤 涼宮ハルヒの教科書 涼宮ハルヒの歓喜~サンタが街にやって来た~ 凉宮ハルヒの明日 涼宮ハルヒの嫉妬
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午前中。休み時間とは名ばかりの、次の授業への移行時間かつ執行猶予時間の際。 俺は……古泉は登校しているのだろうか、長門はどうしているだろうかなどを自分の席に着いたまま黙考していた。 「どうしたんだい? あまり元気がないみたいだけど。なにか悩みでもあるの?」 国木田はこちらへと近づきつつ俺に問いかけ、俺は背後にハルヒが居ないことを確認すると、 「……悩みが多すぎるのが悩みだな。正直まいってるよ」 「ふうん。てかさ、涼宮さんも何だか元気がないみたいだね。ひょっとしてケンカした?」 普通は聞きにくいようなことを飄々と聞いてきた。国木田よ、俺とハルヒはケンカするほど仲が良いわけじゃ……。 いや、あるのか。いつも俺がボッコボコにされてるが。国木田はなおも飄々と、 「聞きにくいって? もしかして、キョンと涼宮さんのケンカは犬も食わない感じになってるの? それなら、僕がそれを聞いちゃったのは野暮だね。ごめん、謝るよ」 謝られたが、考えてみれば野暮なことはないよな。そして、 「……勝手に俺たちを夫婦にするのはよしてくれ。それより、ハルヒが元気ないって?」 あいつが? ……俺には、息巻いて不思議探索に精を出そうとしていたようにしか見えなかったが。 「キョンは気付かなかったの?」 「……俺には世界を作り変えちまいそうなほど元気に見えたがな。もしハルヒがそうだってんなら、多分、俺がまだポエムを書いてないのが原因だろう」 「おいおい、いい加減早く書いちまえよな? お前なら、いままで恋愛経験がなくても関係ねえ。涼宮とのアレコレでも書いてりゃいいじゃねえか」 谷口がどこからか沸いてきた。谷口、俺はハルヒと、それこそ人に言えないようなもんしかしてないぜ。 「それは大胆だねキョン。ここは学校だし、そういった情事的な告白は自重した方がいいんじゃない?」 俺の言葉に国木田がひどい齟齬を発生させちまった。こいつが耳年増なことを言ってるのは、人畜無害そうなツラしてるのが原因だろうか。谷口は国木田に、 「バカ言え。こいつにそんな甲斐性があったら困るってよ。ムッツリな奴ってのはそんなんじゃねえ」 「誰がムッツリだ。おいお前たち、いや、アホその一とその二。妙な勘違いしてやがると俺の怒号より先に、ジェットエンジンを積んだ地対地ハルヒミサイルがアホを感知して飛んできちまうぞ。俺はそれの巻き添えを喰らいたかないね」 「勘違い、ねえ」と声を揃える二人。もといアホ供。そのなかでも特にアホな方が、 「……しかしもう一年になるんだな。お前と涼宮が、一緒に過ごすようになってから」 ――この谷口の台詞は、まんま俺が自分の部屋のカレンダーを見て思った言葉と一緒だった。 四月。ハルヒと出会った日付に、俺が記した印。 記憶をなくしちまった異世界の俺は……その印を見て、何を思っているのだろうか。 「俺はなキョン。涼宮とお前が出会ったのは良いことだったと思ってんだ。あいつが奇行をするのは変わっちゃおらんが、中学の頃のそれとはダンチだぜ」 右手を肩の位置ほどまで掲げながら、やれやれとばかりに話す谷口。 ――俺は話の内容より、谷口の姿を改めて見たことによって一つ思い浮かんだことがあった。すぐさまそれを聞こうと、 「……そういえば谷口。お前は、ハルヒとずっと一緒のクラスだったよな?」 「ん? ああ、中一の時から現在進行形でそうだろ。なにを今更言ってんだ?」 「聞きたいことがあるんだが」 もしかして、こいつはハルヒが異世界を作っちまったヒントを知ってるんじゃないだろうかと思った俺は、「あいつさ、中学の頃から宇宙人やら諸々を探し回って、不思議なものと会いたがってたんだろ? それでさ、なにか……他に変わったことしちゃいなかったか? もしくは、あいつの悩みでも願いでもなんでもいいんだ。教えてくれ」 そうだ。異世界じゃそういったハルヒの願いは叶ってる。その世界がそんなイレギュラーな事態になってるんなら、他に……何かがあるはずなんだ。若干の期待を込めつつ聞いた俺に谷口は、 「知るか」 という端的な答えを出した。冷たい言い方に俺がすこし傷ついていると、 「中学の涼宮の行動はオールラウンドに変わってたぜ。それこそ全部が変だったもんで、それがあいつの普通になってたくらいだ。……そりゃ今でも変わんねぇが、高校に入ってから変わったもんが一つあるな」 谷口は、話の後半部分になるとニヤニヤした顔を俺へと向けて話していた。やめとけ。マジモンのアホみたいだぞ。 とは言わず、それは何だと聞き返すと、 「高校に入ってから涼宮に告白したヤツがいたんだが……涼宮は断ったらしい。中学の頃じゃ考えられねーよ。でな、東中出身のヤツらの間じゃ眠り姫伝説ってのがあったんだ」 もちろん眠り姫ってのは涼宮だ。と続けて、 「眠り姫ってのはつまるところ、涼宮が寝ぼけたこと言いながら正気の沙汰とは思えん行動ばっかやってたからさ、皮肉で付けられたあだ名だよ。そんで、あいつが目を覚ますのは、あいつにちゃんとした男が出来たときだって言われてた」 また谷口は俺をアホ面で見ながら、 「涼宮が男をとっかえひっかえしてたのは、いつまでたっても現われやしない王子様を探してたんじゃねえかって噂が立っててさ。で、あいつは眠ったまんまで王子様が誰だかわからねーから、とりあえず全員オーケーしてたんだろって話だ」 「馬鹿言え。ハルヒが王子様を探してる? あいつが全員の申し入れを受けてたのは、単に断るのがメンドーだっただけだろ」 「それは違うんじゃないかな? そっちのほうが面倒じゃん。涼宮さんなら、斬り捨て御免でサヨナラすると思うけど」 「だが……」 ……と俺は言いかけて停止した。谷口の話を聞いて、一つ不安な考えが頭をよぎっちまった。こいつらとハルヒの恋愛観について侃々諤々としてる場合じゃない。 眠り姫。 スリーピング・ビューティ。 まさか……あの、閉鎖空間から抜け出たときの行動をやれなんて言わないよな? ……俺がなんとも言えない気持ちになっていると、 「でもさ、涼宮さんはその人の告白を断ったんでしょ? じゃあ、もう涼宮さんは王子様を見つけちゃったの?」 「――なっ!」 思わず驚嘆の声を発した俺に、 「何驚いてんだよキョン? いつになく素直な反応じゃねえか」 「うん。まるで好きな人に彼氏がいたのが発覚したみたいな反応だったね」 アホがアホなことを言ってきた。こいつらにアホ言うなとは無理かもしれないと思いつつ、 「お前等がアホらしいこと言ってるからだ。あいつに男なんかいやしないし、第一、今でもハルヒは天真爛漫な行動してるじゃねえか。谷口の予測も外れてるってことだ」 そう言うと、谷口は何故か盛大に嘆息した後に、 「噂は噂だ。与太話でしかねえよ。けどな、じゃあなんで涼宮はそいつの告白を断ったと思う? 俺が言うのは業腹だが、そいつは中々の良識人だったぜ。見た目だって悪かねえ」 「そりゃSOS団があるから……」 「ああ、わかった気がするよ。谷口の言いたいこと」 俺の言葉を途中で止めた国木田は、 「涼宮さんは、今度は王子様と一緒になってキテレツな行動をやり倒してるんだね」 「そういうこった」 俺の目の前に二つのアホ面が広がった。 つまり、こいつらは俺が王子様だと言いたいらしい。なんとアホな。谷口、国木田よ。俺が王子様に見えるんなら、俺が跨っている馬はハルヒだぞ。むしろ、俺がじゃじゃ馬に乗っかってるから王子様に見えるのか? 何処をどう見たら、無残に振り回されまくりの俺の格好がそう思えるんだろうね。 俺はそんなことを考えながら二人を追っ払い、少々残念な気持ちをそのまま溜息として吐き出していた。 実を言うと俺は、谷口がこの異世界問題の解決の糸口を持ってきてくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだ。 そう。長門が世界を改変し、俺以外のみんなの記憶が消えちまった時、あいつは俺とハルヒを引き合わせるキッカケをもたらしてくれた重要人物だったからだ。そして、この谷口は―― 残念以外のなにものでもなかった。 そして昼休みになる。俺はいつものトリオでの昼食会を辞退し、文芸部室へと足を運んでいた。 理由なら沢山ある。長門の様子だって気になるし、ポエムだって書かなきゃならない。教室じゃ恋のポエムなんぞ書けるはずもないため、どうせなら部室で長門と肩を並べながら頑張るのも良いかなと考えたのだ。長門にとっても、戦友がいたほうが退屈しないで済むだろうしさ。古泉は……まあ、気にならないわけではないが来てないとしても俺にはどうしようもないことだし、そもそもあいつが学校にまで来れない理由というのがわからん。よって、俺は数ある懸案事項の中で、ポエム作成と長門についての問題を優先して選択し対応することにしたのだ。 そんな雑多なことを考えながら部室へと到着し、扉を開いた俺は…… 「うお」 室内の長門の様子を目に入れて思わず声を漏らす。 「……今日は、本読んでないのか」 長門はこちらへと振り返ることもせず、顔を窓際へと向けたまま、自分の席に閑寂と着座していた。 「長門?」 俺が呼びかけてみても、一ミリの返答すら返ってこない。 「……機関誌借りていいか?」 「…………」 沈黙を了解の合図とした俺はかつての長門を見習い、ポエムの作成に温故知新的な希望をもって小説誌を開いた。 ……が、何故か俺は自分の小説ではなく、長門の小説を読み返したいと思いながらボンヤリとページを捲っていた。 「………ん?」 長門の小説を探していた俺は、機関紙が検索を終えてパラリと閉じられたことに違和感を感じた。なぜなら、俺はあいつの小説を見つけることが出来なかったのだ。 そして何度か再検索してみるものの、一向に長門の小説は姿を見せない。 というより、ない。 それが俺の勘違いでないというのは、目次として記されている作品掲載順序と実際の順番の不一致が証明してくれている。 そう。本来ならあるべきはずの場所に、あいつの小説がポッカリと消えてしまっているのだ。 「………?」 ――なにかがおかしい。嫌な予感がする。何か……とてつもなく大きなものが俺を待っている気配が、この部室内からですら漂っている。 「長門」 もちろん返事はない。しかし、それがもちろんのことになったのはつい先程のことだ。これも、本来なら変なんだ。 「……機関誌なんだが、お前の小説は何処へ行った?」 「…………」 無言で部室の隅を指差す。俺はまるで札を貼られたキョンシーの如く何も考えず諾々とその指示に従い、長門が指差す先へと歩き出した。 「………?」 壁に突き当たった俺は、またもや沈黙と疑問符を浮かべることとなった。 ここには、円筒状のゴミ箱しか置かれていない。 行動の選択肢が一つしかなかったため、俺は何を思うわけでもなく、ゴミを漁るというあまり宜しくない行動に出た。 ……そして思わぬ収穫物を手に入れた俺は、ここで、やっと意識を取り戻すこととなる。 「――誰が……こんなことしやがった」 俺が手にしているのは……長門の小説だ。見事なまでの手際で切り取られたであろう数枚の紙の姿に、俺はそれを認めることが出来ないでいた。 いや待て。待て待て。わからん。不愉快よりも、不可解さが先に来る。 何が起きてる? いつ始まった? どうしてこうなってる? 真っ白になった頭の中で数々の疑問がひしめく中……俺は思わぬ言葉を、紛れもない長門の声で耳にする。 「わたしがやった」 ……は? なにをだよ。 「それ」 俺は手元を見る。そこにあるのは、もちろん…… 「―――長門っ!?」 質問するには不明なことが多すぎた。俺は長門を一瞥し、そして普段とは違うこいつの雰囲気を認識するやいなやすぐさま駆け寄り、あいつの肩を掴みながらあいつの名前を叫ぶ。 「……なっ……お前、どうして……」 そして長門の双眸と目を合わせた俺は……そこにあるものを感じ、狼狽を隠せずにいた。 「今のわたしには、必要ないものだったから」 そう話す長門の瞳の中には…… 何も、存在していなかった。 今つくづく思う。昨日までのこいつには、いや、初めて出会ったときだってそうだ。無感動ながらも、確かに何かが存在していたのだ。 しかし、俺の目の前にいるこの長門には……何もない。あの黒い瞳はまるで乾いた氷のようにくすみ、光を失ってしまっている。初めて俺は……こいつの姿に虚無というものを見て、例えようのない戦慄を覚えた。 何かが起きてる。それは間違いない。この長門がおかしいってのも間違いない。 じゃあ、何で……長門はおかしくなっているんだ? 《あの日》を思い出したからといって、流石にこうまでなるとは考えにくい。ってことは、なにか他の原因でこうなっちまってるんだ。考えろ。どこかに……ヒントがあったはずなんだ。 昨日は何があった。なにかおかしかったところは?(帰り際にあったな)もしかして、長門は誰かに妙なことでもされたのか?(長門が?)じゃあ誰に?(あいつはどうだ)大体、長門をこんな風にして何の得がある?(ある。あいつには)今日何かおかしなところはあったか?(あいつは来ているか?)機関誌は……(最近あいつがずっと読んでたな)。 「……ふざけるな」 これは俺の馬鹿げた思考に対する言葉だ。くそ。何考えてんだ俺は。わかってるじゃないか。 古泉が……こんなことするわけねえだろうが!(機関はどうだ?) ――いい加減にしろ。そうだ、原因を考えたところでどうなるわけじゃない。今必要なのはトルストイ的思考方法だ。 まず、現在一番優先すべきことはなんだ?(そりゃもちろん長門を元に戻すことだ)それを果たすには?(思いつかないね)じゃあどうする。(何が出来る?)俺に出来るのは……(俺に出来ないなら……) 「喜緑さん……!」 あの人なら何か知っているはずだ。確証はないが、もとよりここで俺が無為に思考を巡らせるよりは彼女に何かしら聞いてみた方が上策というものだろう。 だが、ここの長門はどうする? 下手に校舎内を引っ張って連れて歩こうものなら、ハルヒが追尾してきたりだとか俺が破廉恥な輩だという無用の心配が生徒や教師間に蔓延ってしまうかも知れん。そんなもんに構ってる暇などありゃしない。 俺が行動を決めかねていると部室の扉がガチャリと音を立て、 「……おや」 立ち尽くす俺の姿に少々驚きつつ、見慣れたハンサム顔が進入してきた。 「いえ、長門さんが心配だったのでね。僭越ながらここへやってきたわけです。お邪魔なら引き返しますが」 何も聞いちゃいないのに訪れた理由をいつものスマイルで話す古泉に、 「古泉、これ頼む! あと、長門もだ! 俺は今から喜緑さんの所に行ってくる! 理由はすぐ解るはずだ!」 「……ど、どうしたんですか?」 俺は古泉の胸元に長門の小説を押しやり、されるがままにそれを受け取った古泉は当惑しながら俺に説明を求めた。 「何がどうなってるかは知らんが、事態は風雲急を告げまくりだ! よろしく頼……」 一目散に扉へと駆け出していた俺は途中で足と言葉を止め、唖然としている古泉を見ながら、 「……古泉。俺は、お前を信じてるぜ」 たとえ『機関』が――いや、誰が長門をこうしちまったとしても……古泉は、目の前の長門を守ってくれるはずだ。 俺はそれ以上足を部室に留めることなく、一路喜緑さんの元へと駆け出した。 とは言うものの、俺が目指したのは生徒会室だった。目的地に着いた俺はすぐさまドバン!と無作法にも勢いよく扉を開き、 「……なんだキミは。ここはそちらのイカガワシイ部室と違い、ひどく真面目に学内活動に取り組んでいる場所なのだ。無礼な入室の是非は推して測るべきだと思うがね」 突然の闖入者に呆れ顔の生徒会長。少しも怯んだ様子が見受けられないのは感嘆だ。 「そういえば、機関紙の上稿の件があったな。詩集は完成したのかね? もっとも……キミのその様から鑑みるに、期日の延長でも哀願しに来たと考えるのが妥当な判断だが」 肩で息をしている俺に、会長は訝しげに言い放つ。 「……それも頼んでおきますよ」 ちゃっかりしたことを言う俺に、 「ふん。その程度の用件でわざわざ参られては、こちらが困るというものだ。期日を設定したのはそちら側だろう。そもそも今の私は、奇怪な団体に付き合ってる暇など皆目持ち合わせてはいない。この度の生徒会からの要求も実の所、便宜上の活動内容が欲しかっただけなのだ。詩集とやらはあのお祭り女が勝手に決めたことだ。今回、生徒会側はキミたちに契約不履行の罰則を何も提示してはいない。勝手に四苦八苦でも七難八苦でも起こしていたまえ」 会長があまりにも正当なことを言っているのでちょっと逆らおうと思った俺は、 「……少しばかり要求を急ぎすぎだった感は否めませんがね。せめて二学期から活動を求められれば良かったんですが」 「ふん」 いわれのない非難を受けて呆れ返ったような息を吐き、 「キミは喜緑くんの、折角の厚意を無下にするつもりかね。当初の生徒会側の申し入れを提案したのは彼女だ。……理解したのなら、早く退出したまえ。こちらは昼食をロクに摂れぬ程忙しい身なのだ」 「待ってくれ。俺はそれで来たんじゃないんだ……いや、ないんです。喜緑さんはいないんですか?」 「ほう。キミが我が生徒会秘書と謁見したいというのは何故だ」 答えてるヒマはない。いるかいないかどっちかだけ答えてくれ……という俺の質問は愚問だった。清濁併せ持つというか本来黒い会長がこの喋り方だってのは……。 「会長。どうやら彼はわたしに火急の用があるみたいです。すみません、少し席を外していて頂けないでしょうか?」 「……む。私とてヒマではないのだが。キミも良く知って……」 会長にニッコリと微笑む喜緑さん。これ以上会長が話しを続けていたらどうなるかわかったものじゃない。 「……よかろう。だが、手短に済ませたまえ」 絵に描いたような渋々とした風情で歩き去る生徒会長。生徒会活動に精力的なあの人の邪魔をするのは少々気が引けるな。 「構いません。わたしたちはここで、お弁当を食べていただけでしたから」 一転して会長に越権行為疑惑が浮上した。ちくしょう。権力を傘にきて、喜緑さんにちょっかい出してやいないだろうな。 「いえ。会長は素晴しい殿方ですよ?」 明るく言い放っているが、この人は会長の本性を知っているのだろうか。知らないとは思えないが……。 ――って、そんなどうでもいいことを考えてる場合じゃない。 「喜緑さん! あなたに聞きたいことがあるんだ! 長門の様子なんですが……」 急に笑顔のトーンを落とし、喜緑さんは悲しむ口調で、 「……はい。彼女に異変が発生しているのは知っています……その原因も」 ――よし、ビンゴ。当たりだ。原因が判明すれば、後はなんとでも対策は講じられる。 「……あいつはどうしちまったんですか? 多分、誰かに干渉されて――」 喜緑さんはゆるやかに首を横に振り、 「そうではありません。彼女は……禁を破り、死を願ってしまったんです。そして情報統合思念体からの処分を受け、現在の状態に保持されています」 「な……。あいつらが、長門を――?」 ――待て。思念体にとって長門は……世界人仮説を解明するとかいう、進化の希望だったんじゃないのか? それがあいつらの最重要目標だったはずだ。なのに、禁を破っちまったからといってホイホイとあんな状態に変えちまうのか? いや……もしかして、解明の作業には影響しないのだろうか? だがな、だからといって長門をあんな風にしちまうのは許され――って、 「ちょっと待ってください。長門が……死を願っただって? 死にたいなんぞを思ったってことですか?」 喜緑さんは視線を落としながら軽い困惑の色を顔に貼りつけ、 「……はい。長門さんのパーソナルデータが消去されていることから、それは間違いありません」 「長門のパーソナルデータが消えた? ……何となく意味は掴めるんですが、どういうことなんです?」 俺の質問に、喜緑さんはまるでカマドウマ事件をもたらした際のたじろぎ気味な雰囲気で、 「言うなれば……彼女はもう長門さんではないんです。現在の彼女は、いままでの長門さんの行動形式を思念体から暫定的に付加された、素体が一緒なだけの別人なんです。そして……」 更に沈み込み、唇を噛み締めるような様子で…… 「――もう、わたしたちが知っている長門さんが帰ってくることはありません。……彼女の中に存在する思念体は長門さんのものですが、これからどうしようとも……あの長門さんと同一のパーソナルデータが形成されることはありませんから……」 「………うそだろ」 ……喜緑さん。頼むから、そんな顔をしないでくれ……。それじゃ……。 まるで、打つ手がないみたいじゃないか……。 ――打つ手が……ない? いや……あるのか……? 「…………」 俺は揺らめく意識とおぼろになった現実感の中で、懸命に思考を成り立たせようと煩悶していた。 ……大人の朝比奈さんは言っていた。今日、長門の為に《あの日》へ飛ばなければならない、と。 だが、行ってどうなる? ――そう、そこなんだ。この現在は過去の延長なんだから、過去の空白を埋めても今が変わるわけじゃないはずだろ。 つまり……それは、長門がこうなっちまう現在を変えろってことなのか? だが、それは危険なんだ。俺たちは、歴史がどう変わるかなんて予想出来やしない。大人の朝比奈さんにいいようにされちまう可能性があるんだ。それに……。 長門が復調することは、大人の朝比奈さんにとって不利益なんじゃないか? 思念体は俺に、世界の矛盾を消して元の姿に戻さないかと提案してきた。それは、大人の朝比奈さんが消えちまうってことだ。ああ。そうだよ。そもそもが宇宙人や未来人や超能力者の上の繋がりは、純粋な利害関係で目的が一致してたから互いに敬遠していただけだ。思念体が長門を見限った今、『機関』や朝比奈さんの『未来』があいつを助けようなど考えるわけがない。 ……だが、最も頼りになる奴らは、長門を助けることに微塵の躊躇もありはしないんだ。 ――俺たち、SOS団には。 そして、今は俺の判断が一番重要な意味を持っているんだ。長門や古泉、恐らくは朝比奈さんも背後の黒幕から行動を制限されている。俺の行動如何によって、事態はあらゆる方向に進行してしまうのだ。世界の分岐点とやらがあるのなら、今が一番大事なポイントだ。 よく考えろ。俺に何が出来る? 俺の朝比奈さんに大人バージョンの彼女の存在を打ち明けてみるか……もしくは、博打だがハルヒに俺がジョンスミスだと名乗り出るかだ。危険度を考慮すれば前者だが、効果を考えるなら後者だ。どっちに………。 「………くそ」 どちらを選んだとしても、あまり良い結果が出るとは思えない。 ……それに現在俺の中では、上の奴らに向けているものとは別の怒りが大きくなり、思考することを邪魔している。 ――長門。お前は今大変な状況だが、一つ……言わせてくれ。 なにやってんだ。お前は。 死を願っただって? んなもん、願い事でも何でもねえ。お前は、死ぬほど悩んでたんだろうが。それで死にたくなったんなら、なんでこうなっちまう前に俺に言わねえんだ。いや、俺じゃなくてもよかった。ハルヒでも、朝比奈さんでも……古泉でも。そうさ、お前は一人で抱え込み過ぎるから《あの日》を起こしちまったんだろうが。……いや、それは俺が気付くべきだったよな。お前は何も悪かない。 けどな、長門。俺は誓ったんだ。お前に二度と……あんな思いはさせないと。 それはSOS団のみんなだって一緒だ。だから、俺たちはお前の悩みでも何でも共に背負って行きたいんだよ。 だが、お前がそれを教えてくれなきゃ……俺たちは、寄り添いようがなだろうが……。 長門。お前に一番必要なのはさ、自分が抱えてる悩みを仲間に伝えること――――。 ――ドクン。 ……この瞬間、俺の心臓がまるで今始めて鼓動し、その存在を知らしめるかの如く高く鳴り響いた。 「まさか……」 頭の中では、一人の少女の……笑わない仮面が笑ったような笑顔の映像が勝手にフィールインされていた。 「――喜緑さん! あいつは……朝倉はいないんですか!? いや、とにかく聞きたいことがあるんだ!」 慌てふためく俺を見ることなく、喜緑さんは視線を落としたまま、 「朝倉さんは……現在、思念体内に存在していません。彼女のパーソナルデータのバックアップも、失われています……」 「…………」 ――決まった。 俺は、行かなければならない。二度と行きたくはなかった《あの日》に。 そして俺は……二度と会いたくはなかったヤツに、今一番会いたいと感じている。 そう。朝倉は……長門の願いを、あいつの悩みを聞いているんだ。 ……《あの日》はまだ、終わっちゃいなかった――。 第三楽章・臨
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涼宮ハルヒいじめ短編集 1 2 3 4 5 6 7 8 気付いた時には 自覚 崩壊 赤の世界 キョン
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涼宮ハルヒの激励 目次 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 1 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 2 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 3 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 4 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 5 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 6 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 7 それでもコイツは涼宮ハルヒなんだ 8